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時の流れるまま---クニマスへ

 「こんな山奥にも人の住むところが在るのかしらと思ったの」二十歳で父と結婚してすぐ、赴任地である田沢湖にほど近い発電所へ向かった母の言葉です。
母は、当時はバスが通っていない田舎の生まれなのに。父は、海沿いの駅から三時間歩いて結婚の申し込みをしたそうです。
 両親が街に戻るまでの、半年だけの新婚生活を送った山奥の発電所。四月の山々は未だ残雪に覆われ、水芭蕉も片栗も咲きだす前の山々は残雪が深く、予想以上の片田舎に見えたのでしょう。

 田沢湖に玉川の水を流し込む工事が行われたのは、1940年のことでした。それは、この発電所建設のためだったのだそうです。玉川の上流には、薬効高い名湯として有名な玉川温泉があり、その水は強酸性。工事の結果、湖には魚が住めなくなってしまったのだと。田沢湖を見るたびに思い出される歴史です。

 それまでの田沢湖は、「みずうみ」という言葉の持つ魅力のすべてを兼ね備えた湖だった筈です。水の深さ、透明さ、そしてロマン。
 日本一の水深、それは今も変わりません。日本屈指の透明度は、電源工事で損なわれました。それでも尚、深く澄んだ翡翠のような色合いは、辰子姫の悲しい伝説とともに旅人を魅了します。
 そしてもう一つ、電源開発で失われた大切なもの……それが田沢湖の固有種だった幻の魚、クニマスなのです。

田沢湖スキー

 たざわ湖スキー場の醍醐味。それは、湖に向かってまっすぐに降りていくように見えるコースでしょう。晴れた日には、湖の上の空の蒼、水に映る周囲の山並み、遠くに鳥海山を望むこともできるます。
 「あの綺麗な湖が、魚の住めない死の湖だなんて」
 クニマスが、富士五湖の一つ、西湖でみつかったというニュースには、耳を疑いました。絶滅種の再発見。それは稀に見る明るい話題でした。

 地球は、生物大絶滅の危機を何度も乗り越えてきたと云われています。火山の大爆発、巨大隕石の衝突等などの歴史が、科学によって次第に解明されてきています。
 大陸が春の薄氷ように流れて消え去る時間。微生物が動物や植物に進化し、柔らかい木の葉が石になり、サルがヒトになるまでの時間。時はどれほどの力を持っているのでしょう。恐竜が絶滅しなければ、哺乳類の繁栄は無かったのか…何が悲劇で何が好運か、誰に判るというのでしょう。

 インド、アジャンタの石窟寺院が刻まれ、捨てられ、忘れ去られ、発見されるまでの千年の時間。あれほどのモノを造る情熱と賑わいも、地球の時間から見ればホンの一瞬。千年後には、私の生きた証など、何もかも失われてしまうに違いない。それは悲劇か好運か判るはずも無く。
 それでは私は、何処に行って何をしようか。
 
 70年前は、魚よりも発電所が大切な時代だったのだと父は語ります。水力発電や風力発電ですら、地球環境を破壊してしまう現実と、生物多様性という21世紀の新しい価値。人は自らの宗教や文化、個人個人の価値観の多様性すら、受け入れることが出来ないで居るけれど。

 「あの発電所、もう無くしてもいいよね」
 両親の結婚後すぐに走り出した、母の生家へと行けるバス。泥んこ道を、ボンネットバスに揺られて祖父母へ会いに通った道。そのバス路線は、一昨年廃止になりました。
 バス路線が生まれて消えるまでの時間。変わらぬ風景を求めて、TVの「田舎に泊ろう!」がやって来たという折り紙つきの田舎です。
 今では田沢湖の方は、温泉とスキーで名高い観光地。消えたクニマスもやがて還って来るでしょう。
 すっかり丸くなった両親の肩。電力について誰よりも詳しいその言葉が、時の流れの速さを物語っているようです。

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テーマ : スピリチュアルライフ
ジャンル : 心と身体

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Who‐kuちゃん

Author:Who‐kuちゃん
20世紀インドの大聖者ラマナ・マハルシ、聖地アルナーチャラとの深い縁を支えに、宗教も哲学も超えて行きます。真の自分をみつけるお手伝いが出来たらいいなあ。
私はわたし。
いつだって幸せ。

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